秋の夜長に TDF 2000 Stage 12 Mt. Ventoux

  • TDF 2000 Stage 12 : Carpentras ---> Mont Ventoux、何度見ても凄いパンターニとアームストロングのバトル。うつべを再生中に Shift + Alt + 3 で結構良いショット撮れてるでしょ?

 雨が3日も続くとすっかり体力も余ってくる(まったく自転車に乗らないしローラー台に臨むほどストイックでもないので)し、ここで飲み食いしていると脚は水膨れし身体も重くなってくるので、晩飯は食わずにビデオでも見る。何度見ても飽きないし、エキサイティングで感動的なのが TDF 2000 Stage 12 のラスト Mont Ventoux でのランスのパンターニへのアタックから始まるゴール直前までの二人のガチンコバトル。途中軽快なダンシングにケイデンスとバイクの小刻みなローリングまでピッタンコン合ってくるのはまるで一流ジャズミュージシャンのセッションバトル見ているような気にさえなれる。清志郎の言葉を借りればまさしくブルースか?だけど清志郎のブルースはちょっとお茶目だった(笑)(*1

 実際このシーンほど箱根旧道を始めとしてどんな登りでも昂揚するモチベーションをもたらしてくれるものはない。そうそう、鶴ヶ丘八幡宮へ詣でて戦勝祈願なんかをしなくってもだ。箱根旧道を最後までこの二人みたいに軽快に登れれば最高だけどそれは無理というもの。だけど呼吸の仕方からリズムの撮り方まで楽しくヒルクライムするヒントをこのシーンはなんと多義に渡って教えてくれたことだろうか?まったくイメージトレーニングの宝庫でもあるのだ。煙草を一切やめて、一日のうちホンの僅かな時間の寛ぎだと思っていた肺に吸い込むことなく薫らすパイプさえ捨て去って、心肺力が筋肉の運動能力を上回るようになり、始めて無酸素運動や無駄な脚の動きで肥大した太腿と膨ら脛がみるみる細くなっていくのを自らの肉体に目の当たりにしたとき自転車の本当の魅力がわかった気がする。

  • 左:芦ノ湖、右:樫木平にて。この日は茅ヶ崎から小田原まで飛ばしすぎて補給のタイミングに失敗。小田原であわてて食べたが間に合わずハンガーノックに襲われる。ビンディングをはめ直す都合上樫木平に立ち寄った(藁)

 そう、筋肉よりも強靱な心肺力を手にしなければ根をあげようとする筋肉に必要量の酸素を送り出すことは出来ないのだ。そのために酒も美食もまったく無力なばかりか有害でさえある。ランスやパンターニになったつもりで腹式呼吸しながらリズムを刻んで、やっとの思いでなんとか大観山を越えれば、溢れ出るアドレナリンとともに酒も美食も捨て去ったもののみが味わうことが出来る至上のデザート、椿ラインの爽快な下りに身を任せることが出来る。

  • 二週目の箱根旧道を終えたとき、殆ど熱中症でクーラクラ。芦ノ湖畔のベンチに横たわり空を見上げる。それでも身体の心地よい疲労と充足感はボキューズでのディジョネを越えたように思う。一週目の芦ノ湖と日差しの色が違うの3時間の時差があるから。この夏の良き思い出。

 「辛い仕事は早く終わらせて楽をしたいからさ」って凄い言葉だね、パンターニ*2)。この快感は82年のボルドーや85年のブルゴーニュのアロマを越え、フォアグラやトリュフで肥大する胃袋を拒絶し、イケムを川に流してしまうことさえ厭わない。つまらない価値観は自転車とともにいとも簡単に転換させうることを私は知った。た〜か〜の〜つ〜め〜ぇ、イシクラっ!

BICYCLE CUSTOM (TJ MOOK)

BICYCLE CUSTOM (TJ MOOK)

*1: カスタム自転車というムックに出ていた清志郎とオレンジ号。オレンジ号のペダルは清志郎に隠れて良く見えなかったが清志郎が履いていたシューズはSPDタイプだった。ええっ?まぁ死者に鞭打つのは止めておきましょう。

*2:何かのインタビューで「なぜそんなに速く山を登れるのか」と質問されたところパンターニは「辛い事は早く終わらせたいから」と応えたと言う。このユーモアのセンス。