マグネシウム軽量ホイール論考

クリンチャー時代に生まれたマグネシウムホイールの悲劇

  • 後輪バースト寸前の ERIKO 良く見るとバルブコア付近のブレーキ面が膨らんでいる。このあと大音響と共にバイクは単独でジャックナイフをして見せてくれた。7.5BARとは云え大気の7倍強の圧力は8kg弱のバイクをいとも簡単に宙に舞わせる。ちゃんとタイヤから着してくれたのでフレームは事なきを得たが…

 自転車乗りにとって軽さとは大きなコストと引き替えに、コスト分のフラボノ効果によって自己満足を拡大再生産することが可能な麻薬のような魅力をもつ。本稿ではフランスマッハワン社のマグネシウムリムによって同等サイズのリム高を持つカーボンホイールより軽量でチューブラーホイール並みの軽さを実現したホイールが引き起こした問題点を明らかにし、回転部外周部分の軽量化と円柱型断面形状に固有の乱気流による回転緑低下への瑕疵を検討しつつ、次世代の自転車用軽量車輪と安全性についてを論ずることにする。

  • この写真からはこのサイズでもリムの変形がわかる。しかhし写真を撮った時は気がつかなかった。仕方がないので即席輪行で帰ることにした。こんな時に役に立つ iPhone のMAP 。500m離れないところにダイソーハケーン。ゴミ袋とビニールテープで即席輪行

 と、ウソ八百です。冒頭のみ論文風味にしてみました。冗談はさておきあっという間にお逝きになったマッハワンマグネシウムレーシングについてちょっと書いてみます。次世代の自転車用軽量車輪と安全性については論じません(笑)暫くはてなダイアリーの更新が手つかずだったのですがこの軽量ホイールが組み上がったのが昨年の8月も終わりの頃で、お亡くなりになったのは10月の始めですから僅か2ヶ月強の寿命でした。軽さは本当に軽く前後で1300gを切りますからクリンチャータイヤ用のホイルとして最軽量の部類に入ると思います。28mmのリム高によるエアロ効果はどうかと云われるとはっきりデータを示すことは出来ませんがリム高の低いチューブラーホイールよりは少しは上という気はしますが、20mm くらいのアルミリムと比べると特には体感できませんでした。

  • マグネシウムレーシング亡き後は暫くミシュランPro3をつけたがアラヤのエアロリムを調達できたので直ぐにチューブラーホイールを組んだ。それからじっくり条件に合う ZIPP リムを探し一番割安なeBayで入手。前後別々の出品者から購入し落札から到着まで1ヶ月弱を要した。せかいもんを通さずの個人売買はこのくらいの期間は必須?先日漸く前後組み上がってインストールした。あとフロントフォークが変わっている。1年使って中華カーボンのトライゴンはそろそろ折れそうな予感がしたのでリッチーに交換した。とは云っても台湾カーボンではあるが…

 上から2枚の写真はタイヤがバーストしリムが破損する直前の写真です。1枚目と2枚目はこの後数分で大爆音と供にタイヤがリムから外れました。後輪のバルブ付近のブレーキ面をみると既にホイルに異常があることがわかります。出発前に空気を入れた時はこの変形は見られませんでしたから僅か数時間の間に進行したことがわかります。いやちょうどバイクを置いて景色をみてまったりした時だから良いようなものの、走行中だったらと思うとゾッとします。原因は下の写真にあるようにリムが広がり亀裂部分がチューブを損傷させたようです。空気圧は7.5BARですからさほど高圧というわけではありません。

  • マッハワン社マグネシウムレーシングの損傷。この左上部の裂け目形状ではない穴を最初ゼータトレーディングさんは釘の貫通じゃないか?と疑った。しかしここに釘が貫通してパンクした事実はない。位置的にはバルブと反対側である。

 このリムの損傷状態を見るとかなり大きな力がかかっているように見えます。実際にはそうではありません。何かの本でマグネシウムの分子の結合の形は金属というより樹木に似ていると読んだ事がありますが確かにそのような裂けかたをしています。実はこの事故の前にこのリムで3度程バーストおこしています。原因は薄型のBBBのリムテープで端部がやや鋭角的でそれがこのリムの底の形状との相乗効果で鋭角な部分がエッジが立つようにチューブと接触したと考えられることです。チューブはかなり広範囲にわたって避けていたのですがその切れているラインとリムテープの端部のラインが一致していました。そこでそのリムテープをやめシマノ製の例のブルーの厚手の端部が丸みを帯びたものに変えるとバーストはなくなりました。

  • こちらはバルブ側。バースト前の写真を見るとこちらから先に損傷してバーストを誘発したと考えられるので、釘が貫通してパンクは斥けられることになった。それして走行中じゃなくて助かった。

 従って考えられることは最初のバーストの時の衝撃で視認できないようなヘアクッラクが入りそれがその後の2ヶ月の使用で徐々に広がりこの日に一気に加速して破損したのではないかということです。メーカーに責任はあるのかというと微妙なところですがチューブに損傷を与えるリムテープの使用は想定していないでしょう。しかしリム底の形状から経験が豊富であれば想定出来ない現象でもなく現にマヴィックは専用のリムテープを用意しているリムがあるそうですからこうした事例を経験しているのかも知れません。それでもアルミならおそらく10BAR程度のバーストでこのように裂けてしまうことはないのでしょう。このリム既に昨年初夏でディスコンになっていますからメーカーも解決できない問題を意識していたことは間違い無いようです。

 クリンチャーでこの軽量さと価格(リム一本で18000円くらい。アルミよりはバカ高いがカーボンよりはずっと安い)は非常に魅力的だったのですが、考えてみれば ZIPP や BONTRAGER のカーボンリムでもクリンチャー用はタイヤ、チューブとの接触部分はアルミでガッシリ作り込んでありますから高圧なクリンチャータイヤがリムに与える長期プレッシャーは相当なものかも知れません。これがトラウマになって私はクリンチャータイヤというタイヤの装着方式が怖くてもう使う気になれなくなりました。このマグネシウムリムですがチューブラー用なら問題はなかったんじゃないかと思います。チューブラータイヤからはリムを広げるようなプレッシャーの入力はありません。従って設計上はリムの縦剛性に注意が払われることになるのですがこのリムの28mmというエアロ形状のハイトは縦剛性についてはまったく問題にならないでしょう。

 まさにこのマグネシウムレーシングは出現が遅かったのです。チューブラー全盛時代にプロトタイプでもデビューしていればカーボンホイールとともに生き残ったかも知れません。クリンチャー時代に生まれた故の悲劇でしょう。因みにこの件で輸入元のゼータトレーディングさんには非常に誠意ある対応をしていただきました。代換えに在庫の同等品を出してくれる提案も戴いたのですがクリンチャートラウマで辞退しました。